【個人山行】槍穂高縦走

長雨となった今年のお盆。その直前の晴天をものにして、槍穂高を縦走もとい周回してきました。東鎌尾根、大キレット、ジャンダルムを通過しているので、企画や個人での挑戦を考えている人は参考にしてみてください。

記:船引厚志

晴天のジャンダルム


メンバー

2年会:L船引、古田(1日目終了後分離)

 

8/4()

 古田とは上高地BTで集合することにした。上高地で前夜泊予定の古田から無事にBTに着いたと連絡を受けた。一方で自分はワクチン接種の影響か体調が優れず出発が遅れてしまい、時間ぎりぎりにマークシティのバス乗り場に着いてしまった。緊急事態宣言の影響か駅構内や下のコンビニが早々に閉まっており、朝食や買い足そうと思っていた行動食などを逃してしまう。23日の行程にも関わらず事前に準備していなかったことは重罪である。夜行バスは空いていて隣の席も占領できたが、案の定あまり眠ることはできなかった。


8/5() 晴れ一時ガス(夕方、一時的に雷鳴が聞こえた)

 上高地BTには予定通り520到着。古田と合流し、トイレや登山届の提出など準備を済ます。BTでオカンした古田は観光客に怪奇の目で見られていたようだ()。テントを渡しておいて、道中のキャンプ場にでも行ってもらえばよかったか。

 横尾までは長い林道歩きで他愛もない話をしながらサクサク進む。休憩無しで2時間かからずに来ることができた。めちゃくちゃいいペースだ。古田の成長も感じられて嬉しい。5分ほどたるむ。実に4年ぶりにこの林道を歩いた。ここから先はようやく登山道らしくなり、槍沢ロッヂに着く頃には陽も当たり汗ばむ陽気となった。ロッヂに置いてある望遠鏡で槍ヶ岳が見えるのだが、少しガスっていて萎えた。

 槍沢を進みながら目の前に見える東鎌尾根が非常にかっこよかったので、翌日の大キレットの足慣らしも兼ねてルートを変更することにする。梯子や鎖、細尾根があり良い練習になるだろう。一応計画の中ではORとしてとっていた、と言い訳しておく。

 東鎌尾根へは分岐標識の少し先にある枯れ沢からアプローチした。水俣乗越までの急登は、特段危険個所はないものの一気に標高を上げるので普通にしんどかった。2300m付近で古田がどうしてもと言うのでたるむ。普段なら突っぱねるところだが、自分も普通に疲れたので良い休憩になった。水俣乗越まで着くと北側の展望も開けなかなか気持ちが良かった。北鎌尾根もよく見えていた。水俣乗越のたるみで念の為ヘルメットを装着した。

 東鎌尾根は結構起伏もあって、槍沢をだらだらと登るより明らかに楽しかった。難所とされる“三段梯子”や“窓”も難なく突破する。ただ、天候不良だと普通に怖いだろう。古田はこういったルートの経験が少ないためか、少し動きに不安がありそうだった。ヒュッテ大槍まで着くと高校の山岳部と思われる集団に追いついた。皆かなり若く、眩しかった。ヒュッテの手前辺りからペースが少し落ちたのだが、翌日以降のために行動食を節約していたからであって、十分な食料を買っておかなかったことを心底後悔した。テン場を確実に確保したかったので、ここから少しペースアップした。

山頂に着くまでにガスとれてくれ~

 予定通り1時半頃に槍ヶ岳山荘に着いた。テン場の受付をしていると、ヘリコプターによる荷揚げが行われており、歓声が沸き起こっていた。山荘から少し先にあるテン場は、よく整備されていて快適だった。久しぶりに自分の2天を張りながら、平日にもかかわらずかなり埋まっているテン場を見て、その人気ぶりを改めて感じたのだった。もう少し遅かったら殺生ヒュッテまで戻る羽目になっていただろう。槍ヶ岳山頂はガスっていてよくわからなかったが、初めてなので取り敢えず登ってみることにした。自分がちょうど山頂に着いたときにガスが抜けたらしく、おじさんにラッキーボーイともてはやされた。古田が全然登ってこないので下を覗くと、まだ半分くらいでゆっくりしていた。うーん、明日の大キレット大丈夫かな?古田が登りきるころには再びガスに包まれてしまった。悲しい。記念撮影をし、さっさと山荘に戻った。

 テラスでビールを飲んでいるとおじいさんに話しかけられた。何やら穂高と槍ヶ岳に登りに来たらしく、百名山90座目だそうだ。槍ヶ岳を100座目に考えていたが、コロナの影響で北海道に行けず、やむなくこちらを先に登りに来たらしい。一生続けられる趣味っていいなって思った。

 テントに戻りサイトの準備をしていると、古田が東鎌尾根や槍ヶ岳山頂ピストンを通して、岩場での行動に不安が残るということで、明日下山しようと考えていると言ってきた。たしかに見ていて不安もあったし、自分の力量を見極めて申し出てきたことは評価したいと思った。もっと体力、技術を磨き改めてチャレンジしてほしい。というわけで、ワンゲル的にはアウト案件だが、2日目以降は分離してお互い単独での行動となった。この際せっかくなので、天気が良ければジャンダルムにも行ってみることにした。

 夕方にはこの時期の特徴とも言える雷鳴が聞こえていたが、特に雨が降ることもなくサイトを終える。サイトが終わる頃には天気も回復し、夕日を見るべく再び山頂へと向かった。古田は疲れたとかで下に残っていた。もったいない。山頂に着くとそれはそれは綺麗な景色が広がっていた。北は黒部源流に南は南アに富士山まで360度の大展望だ。こんなに素晴らしい景色にも関わらず、山頂には2人しかおらずとても贅沢な時間だった。日が沈むまでゆっくりとこの景色を堪能した。テントに戻り8時過ぎに就寝。

雲によって一層幻想的
槍ヶ岳山頂から穂高連峰を望む


8/6() 晴れ

 3時半に起床。星空がめっちゃ綺麗だった。2人分だと水が沸くのも早いのでサクッとサイトを済ます。日の出を槍ヶ岳の頂から見るべく、4時半頃には撤収も完了し山荘へ向かう。しかし、山荘から槍ヶ岳へ登っている人が結構見えて、下りの渋滞で行程に遅れがでるのが嫌で、結局登らずに日の出を待った。撤収が早すぎて寒かったが綺麗な朝日を見ることができ、記念撮影を済まして山荘前で古田と別れた。

大喰岳から見る槍はめっちゃかっこいい

 南岳小屋まではよく整備された登山道で、天気もよく気持ちの良い稜線歩きを楽しめた。なんて贅沢な山行だろうか。南岳から北穂周辺で捜索ヘリが飛んでいるのが見えた。後から知ったのだが、前日に滝谷ドームで事故があったらしく、その捜索を行っていたようだ。ご冥福をお祈りします。

 南岳小屋を越えるといよいよ大キレットである。結構身構えていたのだが、基本的な動きは他の岩場と何ら変わりはしないし、核心部がずっと続くというわけではなかった。しかし高度感はあるので、下りはそれなりに怖かった。長谷川ピーク周辺から小屋にかけては本ザックで通過するのは正直嫌だった。そんなにたるめる場所があるわけでもないし、メンツを揃えない限りこのルートで企画は出したくないなと思った。北穂高小屋はずっと見えているのになかなか到着せず辛かったが、最後まで登りごたえのある岩場が楽しめた。小屋直下の岩場は下るほうが明らかに難しいだろう。北穂高小屋は富士山の小屋を除くと、最も標高の高い位置にある小屋で素晴らしいロケーションだった。テラスでたるませてもらう。

北穂高小屋から大キレット

 小屋からすぐのところに北穂高岳北峰があった。涸沢から登ってきた人で賑わっており、自分も写真を撮ってもらったりした。北峰から南陵分岐まで下り、少し登り返すと“南峰まで30m”という看板があった。もちろん行ってみたのだが、こちらにはあまり人が来ないのか静かに看板が出迎えてくれた。ザックにカメラを載せ、自撮りした。個人的には南峰のほうが好みだと感じた。その後ルートに戻ると、小屋ですれ違ったハーフ?の女性と再び出会った。速そうだったので先に行ってもらったが、何だかんだ穂高岳山荘まで一緒に行動した。今シーズン上高地の西糸屋山荘というところで働いているらしい。かなりペースが速いうえ、ほとんど休まずに進むので正直付いていくので精一杯だった。前情報通り、北穂-涸沢岳間は大キレットに負けず劣らずの岩場の連続であった。距離の割に難所が続くので、大キレットよりも危険ではないだろうか。途中虹が2つ(環水平アークっぽいもの)見れて本当に恵まれた天気の中での登山となった。

 順調に進み11時半に穂高岳山荘に着くことができた。槍ヶ岳山荘から6時間ほどと、とてもいいペースだ。テン場の受付に行って人数が変わってしまったことを伝えるとお兄さんは苦笑いをしていた。古田、なめられているぞ。

 受付後、一緒に行動してくれたお礼をし、彼女とは別れた。ポッキーまでいただいたのでいたれりつくせりだった。彼女が前穂まで1時間半で行けると言うので、元々行く気満々だったが、さらに気持ちが高まった。テントをさっさと設営しサブ装を整える。ここのテン場は位置の特性か風が強く、帰ってきてテントが飛ばされていないか少し心配だった。

 特にリミットは設定せず、12時半頃出発。ここからはサブ装なので飛ぶように軽い。軽快に登りあっという間に奥穂高岳に着いた。写真の順番待ちをしていると頼む前に“写真撮りましょうか”と声を掛けていただいた。優しい方ばかりだったし、写真のセンスも抜群だった。奥穂からは明日挑むジャンダルムやこれから向かう前穂高岳など綺麗に見えた。それにしても前穂遠くね?山荘から1時間半ってまじ?

ナイスな写真ありがとうございます

 吊尾根はずっと尾根の南側をトラバースする感じの道だった。トラバースと言っても道幅は十分にあり、切れ落ちているわけではないので怖いと感じることはなかった。また、鎖もあったが特に難しくはなかった。しかし、この時間だとまだまだ岳沢方面から登ってくる人も多く、すれ違いに時間がかかる場所もあった。奥穂から1時間近く経った頃、ようやく紀美子平に着いた。すかさずたるむ。一番暑い時間帯な上に、日陰が全くなく本当にきつかった。1時間半で前穂まで行ってしまうなんて超人すぎる。

 前穂への登りはここまでの疲労もあってか、なかなか思うように進まない。エアリアも空身設定なのか、ここだけはあまり巻くことができなかった。山頂は誰もいないのかと思ったが、岩陰からおじさんが出てきた。人が来るのを待っていたらしく、お互いに写真撮影した。暑いけどまじでいい天気だ。辺りを見回しても崩れる気配はなかったので少し長めにたるんだ。またこの道を、しかも登り気味に帰らなければならないと思うと憂鬱だった。紀美子平に向けて下っていると、若い兄ちゃんが水が足りないかもしれないので譲ってほしいと言ってきた。譲れるほど持っているわけではなかったのでお断りしたが、きちんとそのへんの管理ぐらいはしてほしいものだと思った(自戒も込めて)。ULが流行している弊害か?

 結局休憩も合わせると4時間半弱かかってしまったが、日の入り前に帰幕できたので良しとする。結構ルーズな人が多いのか、16時を回っても(なんなら日の入り直前でも)まだまだ人がやってくる。農鳥のオヤジならおかんむりだぞ、などと在りし日のことを思い出した。

 この晩は少しハプニングがあった。バッテリーのケーブルがイカれて、スマホを充電できなくなってしまったのだ。小屋の方に相談してみたのだが、type Cの充電ケーブルのストックはなかった。こういう時iPhoneにしておけばよかったかなと思う(絶対にしないが)。下山後充電がなくてはどうしようもないので、明日涸沢からER下山することも考え、一通りメモを取らせていただいた。結局ケーブルをこねくり回していると充電ができたので、明日も予定通り進むことにして9時頃に就寝した。風でテントがばたばたと揺れていた。


8/7() 晴れ一時ガス

馬の背、ロバの耳のログは少し変

 3時半に起床。夜は風がすごくなかなか寝付けなかったが、思ったより体の疲れはとれていた。いよいよジャンダルムに挑戦だ。渋滞するのを避けるために、日の出より少し前に出発した。今山行3度目の奥穂の頂に登り、ジャンダルムに向けて準備を整えた。先行者には4人パーティーと3人パーティーがいた。

最終日の朝

 いきなり核心部で、“なんかおもろい岩場あるやん”ぐらいに思っていたらそれが馬の背だった。長野県側は意外と岩の切れ目がホールドになり、下から見るに登りはそれほどでもなさそうだが、下るのは高度感があり怖かった。本ザックで再訪はしたくない。少し進んだ鞍部で3人パーティーに道を譲ってもらい、そこを登ると4人パーティーとかち合った。ジャンダルム一番乗りを目指してかなり早くに出発したらしい。追いつかれて悔しそうだった(笑)。下り待ちをしていると、上から落石が目の前を通った。何も言わずに何たる奴だと思っていると、若い兄ちゃん2人組が下りてきた。カメラなんかぶら下げてる暇あったら、周りに気をつけんかいと思わず心のなかでブチギレた。気を抜くと自分だけではなく、他人も巻き込んでしまうので本当に危険だと思った。その後も岩場を登ったり降りたり、トラバースしたりと、慎重に通過していき(気づいたらロバの耳は通過していた)、ついにジャンダルムの直下まで来た。直登と飛騨側に巻くルートがあるのだが、さすがに直登はせず大人しく巻いてジャンダルムに登頂する。ようやく天使に出会えた。今日は曇り基調だと思っていたので、この大展望は本当にラッキーだった。しばらく人を待っていると、4人パーティーが巻かずに直登してきた。おじさん強すぎます。おばちゃんたちはビレイしてもらっていた。お互いに写真撮影をし、名残惜しいが先の行程も長いのでジャンダルムを跡にした。

南側から見るジャンダルム

 順調に進み天狗のコルでたるみとした。奥穂-西穂縦走路唯一のERだが、ガレガレであまり使いたくはない道のように見えた。ここから登り返してまた下る、この連続をひたすら繰り返すだけの何とも単調できつい縦走路だ。名物の逆層スラブは“めっちゃ長い鎖あるやん”と思っていたらまさにそれだった。馬の背に比べたらちょちょいのちょいではあるが、天候次第ではフリクションが効かず怖いだろう。下では西穂山荘から来た方々が休憩していた。この辺から少しガスりはじめたので、何とかピークまではもってくれという感じだった。その後も問題なく突破し少し気が抜け始めた頃、間ノ岳の下りで今山行一番嫌だったガレ場に出会った。前情報であまり危険箇所とはなっていなかったが、明らかに危険箇所である。そこら中浮石まみれで突破に難儀した。しかもこれがルートと思わず、当初右にトラバースしたのだがRFミスであった。ゴミ過ぎる。ここで単独のおじさんに追いつかれたのだが、声を掛け合いフォールラインに入らないよう1人ずつ突破した。おじさんも落石していたがどこまでも落ちていき下で待っている人がいたら大変危険だと思った。渋滞していなくて本当に良かった。結構へこんだが、切り替えて先を急ぐ。展望もあまりなくどこがピークかもわからないまま、登っては下りを繰り返すのは精神的にきつかった。そうこうしていると西穂高岳に着いた。いやー、ようやくここまで来た。5時間で来れたことを考えると、そんなに歩いたわけではないのだが心身ともにどっと疲れが来た。無事で良かった。

 西穂山頂でたるんでいるとガスが晴れてきた。これにて槍、北穂、奥穂、前穂、西穂と槍穂高のピーク全てで晴れを勝ち取ったことになる。素晴らしい。山頂に来たカップルに写真をお願いし、談笑した後出発。いつもならカップルに苛ついていたかもしれないが、人間勝手なもんである。この辺から一気に人も増え、精神的にもだいぶ楽になった。あっという間に独標に着いて記念撮影。ここから先は緑も多く、これまでとは一転してなだらかな稜線が広がっていた。天気も良かったので非常に気持の良い稜線歩きとなった。

大勝利でした

 正午前に西穂山荘にたどり着いたときは、随分とホッとしたものだ。下山するまでは気を抜けないが、1人でガッツポーズしてしまった。上高地までの下りは、まあ普通の登山道といった感じで特筆すべきところはなかった。ただ、久しぶりに土の上を歩く感覚は、これまでの足の疲れを癒やしてくれたような気がした。

 下山後は家族と中尾さん、古田、一応西糸屋山荘の方にも一報入れた。結局西糸屋山荘の方にお世話になり、アップルパイをご馳走になった。これまでの疲れが吹っ飛ぶような美味しさだった。談笑していると乗る予定のバスを乗り遅れてしまったが、まあ仕方あるまい。山での再会を期して、15:15のバスで帰路についた。

 

総評

 3日とも天気がよく、主要なピークの全てで晴れていたことは快挙だと思う。大キレットにジャンダルムも踏破し、感無量だ。学生最後の夏休みにふさわしい挑戦だった。

 古田とは分離行動という結果になってしまったが、実際に自分がその先へ行ってみてこの判断は正しかったと確信している。大キレットなら可能性はある(実際に過去に行っているし)が、ジャンダルムが止められる理由も理解出来た。よっぽど信頼の置ける少数精鋭のメンツでないと挑戦してはならない縦走路だと思う。ただ、最近はアルパインの導入やクライミングにも力を入れているので、本格的なアルパインの前に挑戦しておく価値はあるだろう。なにはともあれ、無事に行程を終えることができた今、山行中の全てに感謝という気持ちでいっぱいだ。



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