高尾~奥多摩湖(個人山行)

からだいっぱいに新緑の空気を入れたかった。土の香りにつつまれたかった。突き上げるような衝動を止めることなど不可能だった。
静かな高尾山稜を巡るナイトハイクじみた個人山行。
 記 久保
 
東京方面の夜景


4/28(金) 快晴、微風

16:20日影バス停―16:55高尾山頂17:0517:40小仏城山17:50―(日没)―18:20景信山18:3019:00堂所山―19:20明王峠―19:50 陣馬山
 
 大学の現地実習が予想外に早く終わり、意気揚々として山に入る準備をする。高尾山駅に向かって歩き始める同期に背を向けて、靴下を履き、登山靴に足を入れる。今年初の「土を踏みしめて歩く」登山である。
 日影バス停からは砂利の林道を進む。キャンプ場を過ぎたあたりで細道に入り、順調に山の中へと入っていった。静かな林に響き渡る野鳥の声に耳を傾けながら、長らく忘れかけていた感情がよみがえってくるのを感じた。
 上から降りてくる人と何回かすれ違った。さすが、高尾山というだけあってこんな時間帯のこんなマイナールートでも人はいる。あっけなく稜線に出て、そして気が付いたら山頂に立っていた。山頂はがらんとしていて、静かな高尾山であった。とにもかくにも感じよく高尾山を後にできてよかった。
人影のない高尾山

 道中から大方の山は望むことが出来た。丹沢方面を見るたびに、いつもあの大室山を思い出してしまう。丹沢山や蛭ヶ岳よりも思い入れのある山塊だ。
たそがれの丹沢山塊

景信山に着くころには日も沈んでしまった。東京方面も明かりが目立ち始める。茶屋があり、古びたベンチとテーブルがひしめいていた。休みの日は相当人が多いんだろう。富士山が赤く染まった雲を背景にぼうっと浮かび上がっていた。
 ここから先は、道の整備も高尾山と比べて劣って来るが山道というほどではない。まだまだ立派な幹線道路である。稜線上は木々が少なく明るいが、いったん尾根が下り始めたりすると闇に包まれてくる。結局、限界は18:46頃だった。ここでヘッデンを導入してスピードアップする。巻き道が幾つかあったが、稜線上の方が明るいので巻かないようにする。途中で、前方から眩むような光を受けてドキリとしたが、普通のおじさんだった。てっきり軽トラかと思った。
 堂所山への登りは途中で道を外してしまったようだが、適当に登ったら着いた。ヘッデンは頭につけずに手に提げて低い場所から照らした方が、地面の凹凸が分かってよろしい。それにしても、夜中の山歩きはずいぶんと肝を試される。最初は強がっていた私も次第に心細くなってきた。まだまだ精神の強さが足りないかな。

ヘッデンで照らしても…見えない。堂所山にて
 明王峠は峠らしい様相ではなく、藤野町15名山とのプレートが付けられていた。真っ暗で何もわからない。山梨の町が左下に灯っているのが心強い。
 坂をテンポよく登るとあっさり陣馬山に着いた。3年前に本の写真で見た通り白馬が立っていた。山頂の広場も馬も予想より小さかった。夜景の眺めは良く東京の西側の明かりが良く見える。おそらく埼玉の明かりも混じっていると思う。まだまだ余力はあったが、予定通りここで仮眠をとる(=寝る)ことにしよう。ずっと半袖で歩いていた私も立ち止まると寒くなってきた。新しい半袖を着て長袖を被り、さらにソフトシェルを着込んで最後にゴアマだ。持っている物すべてを着るとちょうどいいくらいになった。
 コンロに火をつけてお湯を沸かしていると若いカップルが来た。アベックがささやき合っている隣で寂しくカップ麺を食べるのは物悲しかった。
 21時過ぎに銀マを敷いてシュラフに潜り込んで就寝。気持ちのいい夜だ。

4/29(土) 快晴、微風、午後から曇り、通り雨

3:20起床―陣馬山頂4:154:25和田峠―4:55醍醐丸(日の出)―5:10大ゾウリ山―5:30連行峰―5:40連行峰―5:40茅丸―5:55生藤山6:156:17三国山―6:25軍刀利神社―6:34熊倉山―7:05浅間峠―7:37日原峠―7:43水場8:058:20土俵岳―8:56丸山―9:35数馬峠9:5510:23槇寄山―11:10大沢山―11:25三頭山西峰12:0812:09中央峰―12:10東峰12:1112:35入小沢ノ峰―12:49ヌカザス山―13:20イヨ山―13:49登山口―14:05小河内神社バス停----14:25小河内神社
 ふっと目が覚めた。どこか身体が緊張している。ほどなくして人が近づいてきていることに気づいた。やはり人間も動物の一種なのだろうか、危険を察知する本能は寝ている際でも持ち得ているようだ。時計を見ると2:46である。
 いったん目が覚めると再び眠りに戻るのは至難の業であった。おまけに星空の美しさといったら…。これでも東京都である。気温は低めで、シュラフに入っていても寒さを少し感じるほどである。シュラフカバーの内側は結露がすさまじかった。それに夜露が少し降りたようであった。まあでも、雨さえ降らなければオカンスタイルで全く不都合はない。30分ほど星空を眺めたのち、やっと身体を起こして朝食の準備をする。コンロでお湯を沸かし鴨そばを食す。スープもすべて飲んで体を温めた。
日の出前が一番いい

 群青にオレンジのラインが入る絶妙なタイミングに出発する。半袖にゴアマ、ヘッデンというスタイルで下る。林の奥からイノシシの荒い鼻息のようなものが響いてきてぎょっとした。
 山は間もなく朝を迎える。ツツドリを皮切りに数多くの野鳥がさえずりを始めた。ヒタキ類だとは思うが、すぐに名前が出ない種類もいたので帰って確認しよう。和田峠にはあっさりと着いた。この先は林道を進み途中で左手の山道に入っていく。真夜中だと見落としそうなので昨日は陣馬山で止めておいてよかったなと思った。
 醍醐丸で日の出を迎えた。眩い光ではなく、春霞に色づいた紅円だった。茅丸で1000mを越えた。落葉広葉樹林を進み、私好みの道になってきた。芽吹いたばかりの若葉たちが朝日に照らされて輝いた。「山笑う」。自然と私の頬も緩んだ。
山笑う

 日原峠は意外と遠かった。いくつか小ピークを越えたのでもう過ぎてしまったんじゃないかと心配になったほどだ。峠にはきちんと水場まで5分との表記があった。ここで稜線から外れトラバースするように道が続いていく。なかなか高度を下げないし、5分経っても着かないので本当に水が出ているのか、もしや作業道ではないかと思ったが、6分ほどで水の音が聞こえてきた。エアリア読みだと10分かかるだろう。竹の筒が渡されてあって汲みやすかった。ポリタンをおいて水が入るのを待っている間、フルグラを食べて休憩。うまい具合に樹間から光がこぼれてきて暖かい。水はすぐに溜まった。渇水時でもアテにしていいと思う。
日原峠の水場【ネット上に写真が少ないので】

軽快な山道が続く

 ここから先も静かな山道が続き、人にも会わずいいところだった。数馬峠は南面展望がよい。富士山もよく見えた。ぽかぽかと暖かい地面に寝転んで土や草の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。槇寄山から人影がちらほらと出てきた。大沢山の辺りでバテている人がたくさんいた。避難小屋は美しくて大きい。ここも人が多い。
御前山、鋸山、大岳山

三頭山頂は人でごった返していた(大きなザックを背負っているのは私だけである)。中央峰が静かなことや東峰の展望が良いことを知らない私は人の多い西峰で長ダルミをする。銀マを敷いて裸足になって昼寝をした。
人が多かった!

 ぼうっと、手帳を見返して下りもエアリア0.4倍くらいで十分だろうと考えたが、これが失敗。面倒な急坂に膝をかばいながら歩くものだからそんなに飛ばせるわけがなかった。ヌカザス山に着いた時点でバスを諦めかけた。なお、ここからムロクボ尾根にはFIXロープが垂らされてあってちょっと高度感があった。このまま、休憩を挟まずノンストップで下って急いだが、三頭山登山口から奥多摩湖の対岸までが遠すぎた。まあでも、浮橋は楽しかったしいいか。バスは乗り損ねて1時間待ち。間違って平日の時刻をメモしていたようだ。服や靴を干して近くの小河内神社にお参りに行っていると夕立が来て荷物が濡れてしまった。あとは、近所のおじさんとしゃべったりして時間をつぶした。
夕立が去った奥多摩湖。手前は浮橋

 翌日は広沢寺でクライミングをしたが若干筋肉痛が残ったかな^^;

まとめ

静かな高尾山稜を歩けて良かった。人さえ少なければ文句なしにいいところ

【水場】このルートには水場がほとんどない。日原峠は渇水でもあてにしていいと思う(写真参照)。峠から数分
【小屋】三頭山避難小屋は立派で美しい
【人】昼間は激混みの模様。静かな山歩きを楽しむにはナイトハイクを交ぜるしかないだろう
【道】高尾~陣馬は夜中でも歩けるほど整備されている。それ以外は普通の山道であり初回でナイトハイクは危険
【危険個所】特になし。夜だと三頭山辺りは厳しい
【ナイトハイク】重くても明るい電灯を用意した方がいい。事前に睡眠をよくとっておく。寝袋を携行していると安心

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