年越し 塩見岳・小河内岳

6日分の食糧と燃料と大量の差し入れを担いで、冬の南アルプス3000m峰に行ってきました。
雪山の美しさを強く感じた濃い4日間でした。
記:久保

■参加者(5名)
4 CL村田 3 sL久保、H中津、W西山 2 E勝木 (3 F梅宮は体調不良で不参加)
+αの持ち物
8.1mm*50mロープ1、ハーケン8、ハンマー2、ハーネス・下降器・ビナ・スリング類各自
烏帽子岳より塩見を望む




■序
冬山に憧れて東大ワンゲルに入った。山スキーに傾倒する中、歩きを充実させたかった。もともと南アが好きだったこともあって塩見・小河内を選び、着々と準備を進めた。
足りていないものは冬山でのロープワーク技術である。山行前の1ヶ月間を技術の模索と習得に費やした。
具体的には、各自使えそうな雪上技術を考えて共有するというものである。クライミングウォールに集まって下界訓練を行い、それを雪訓で実践した。富士山を選んだのも本企画のためであった。岩と雪ミックスの初冬常念も経験になった。やや消化不良ではあったものの、今ある技術でできることをしようという方針にした。
技術が不十分でもコースを予習しておくことは可能である。難関と思われる塩見直下の岩場写真や山行記録(登頂&敗退理由)をまとめた資料を作り、参加者間で共有した。できる限り不安要素を少なくしたかったので、予想される天候と対応する行動計画をまとめたりもした。山行前の私は考えられる天候・積雪パターンのシミュレーションに余念が無かった。
今山行では、“認識の共有”を意識して為せるだけの準備をしたつもりである。
執念が通じたのか、要所要所で天候に救われ塩見に登頂、全員で完遂という結果を得た。
いつ振り返っても悔いのない最高の年越しができた。


それに、塩見は孤高の美しさが際立っていた。

塩見岳へと続く雪稜



12/28(木) 快晴
13:45本郷15:00=[中央自動車道、R152]=22:00冬ゲート23:30300m手前の駐車場▲024:30就寝

天気予報によると、12/30まで天候は落ち着くが、31日に低気圧で大荒れ、1/1から冬型が強まるらしい。30日を塩見アタックに充てるため、29日はできるだけ前進する方針にする。
ルート概念図


13:45に本郷集合にする。全員が遅れたが大きな問題もなく出発。中央自動車道から富士山や奥秩父の山並みがくっきりと眺められた。諏訪でとんかつ定食や山賊焼などを食べる。体力勝負の山行前は定食屋でしっかり食べるのが有効だ。このまま南ア西側に生じた割れ目に沿って南下する。3時間かかる地獄の林道歩きを解消する名案(車で登山口に行き荷物を降ろし、ゲートに戻って駐車後、空身で登山口までナイトハイク)がメンバーから出された。東大の知能を感じた瞬間だった…が、ゲートには4桁の数字で構成されたダイヤル錠がかかっており計画は台無し。1時間半ほどかけて考えを巡らせていたが眠気と寒さでダウン。冬ゲート300m手前の駐車場には他に1台車が止まっており、明け方もう一台来た。電波は各社よく入る。


12/29(金) 快晴→晴れ、風強い
三伏山2615m、本谷山2658m[3]
4:30起床、6:00~(たるみ10*2)~夏ゲート7:408:18登山口8:40~(アイゼン5分、たるみ10*3回)~12:10三伏峠(デポ作成)13:0013:15三伏山13:2214:10本谷山手前コル14:2315:30本谷山15:4516:051 【10ピッチ】

6日分の食糧と燃料、大量の差し入れと登攀用具類は明らかにザックの収容力を凌駕しており、パッキングに手間取った。
荷物が入らない…。
星空の下、ヘッデンを照らして出発。4時間しか寝ていない身体に重さが応える。…はずだったが、雪を被った中アが美しく浮かび上がりテンションが上がる。雪は林道の1/3程度しか覆っていなかった。この年末は雪が少なそうである。ところどころ凍っているので注意が必要。小河内も立派だった。
荷物が重い割に順調に進んだ。だが、後になって地獄林道歩きの弊害が出始めるのだった…。登山口で中津のみかんを食べて体力を復活させる。ツボ+ピッケルで登山道に入ったが、木の根や岩の上が凍っており歩けたものではない。5分で音を上げてアイゼンを履く。この安心感…。峠までたるみごとにみかんで元気を出しながら歩く。5/10を過ぎたあたりで塩見の頭がちらりと見えた。この辺から雪の量が増えてきてトレースを外れると腰まで沈む。8/10辺りで嫌らしいトラバースがたくさん。先行トレースに感謝。9/10から峠までが意外にきつかった。それでも、順調すぎるペースで峠に到着。デポ【F2日分、予備食1日分、行動食2日分、大缶2、茶飯ネタ3日分、差し入れ全部】を作って雪に埋める。ここからワカン+ピッケルに替える。
たくさんデポしたので軽くなったはずだが、やっぱり重い。峠から先にトレースはない(小河内方面はあった)。三伏峠は木が生えておらず展望が良い。真っ白な塩見が大きく見えた。明らかにここ1週間で雪の量が増えている。天狗岩~塩見山頂は信じられないほどの急斜面、岩壁が続いていた。明日はあそこを行くのだな…。
三伏山から先は基本的に膝ラッセルで登り斜面だと腰ラッセルになる。3分で時間を区切りながらメンバー5人が総力を挙げてラッセルに励む。竹竿が枝に引っかかったり、時々胸まで沈んだりと消耗が著しい。この辺から林道歩きの後遺症が出始めた。途中で、スノーシューを履いた単独男性が追いついてきたので交代してもらう。だが、スノーシューの後でもワカンはかなり沈むので再びラッセルすることに変わりはなかった。このあとも単独男性と抜きつ抜かれつ共同作業でトレースを作った。
 本谷山は木が生えておらず、一時的に限界上と言った感じである。展望が良いが、その分風が強い。雲も増えてきたが、奇跡的に塩見だけ雲が被っていなかった。ここでも単独男性とともにたるんだ。彼はもう少し先を頑張るらしい。我々は消耗しているのでサイト適地を探しながら進むとしよう。山頂から200mほど進むと大きな空き地が見つかったのでザックを降ろす。中津・西山に先を偵察してきてもらったが、良いサイト場がなかったのでここで幕営。我々が選んだ場所はかなり都合よくできていた。まず、西側に木々が多く雪も盛り上がっているため風が全く当たらない。さらに樹間から塩見が見える。
夕食は中華風鍋。梅宮が抜けた分、一人当たりの量が多い。水作りは10発。今日は荷物が多く、行動時間も長かったので宴会はしない。今日は想定以上にラッセルに時間がかかり、隊も消耗した。当初のリミットのままだと塩見小屋から先へはほとんど進めない。好天予報を信じて、明日は塩見小屋での帰幕リミットを14:10に設定して時間をいっぱいまで使って塩見アタックに充てる方針にする。
夜は風が強く吹いていたが、夜景が美しかった。


12/30(土) 快晴、風やや強い
塩見岳西峰3047m[2]、塩見岳東峰3052m
5:00起床、6:377:302512m7:45~(たるみ10分、アイピケ5分)~塩見小屋(デポ・防寒)9:55~(たるみ10*2、デポ)~11:31塩見岳西峰~11:34塩見岳東峰12:0012:03塩見岳西峰12:0812:55塩見小屋~(わかん10分、たるみ10分)~[2512m]~15:20サイト場▲2 【9ピッチ】

 本日は塩見アタックである。5時に起床。片方のヘッドが不調で実質一つのヘッドでこなしたためサイトに時間がかかった。朝食はTPP(たらこペペロンチーノペンネ)という謎メニューだった。テントから出ると文句なしの快晴。伊豆半島の手前に駿河湾がきらめいていた(カシミールで可視確認済み)。
 テントをつぶす前に中を確認するとテルモス・エキボ・メット・ポリ…など忘れ物がわんさか出てきた。ワカン・ハーネス・ビナスリング類をつけて出発。雪が締まって歩きやすかった。しばらく進むとスノーシューの単独男性のテントがあった。彼も塩見が見える場所で幕営していた。この先トレースはなく、中津・西山でトレースを作ってもらう。夏道トラバース2512mあたりで後ろからスノーシューの単独男性が追いついてきた。軽くしゃべりながら進む。勝木の調子がおかしく、隊の進みが遅いので男性に先に進んでもらった。勝木に調子を聞くと気分が悪いという。たるませて胃腸薬を呑ませようとすると、今度は中津がヘルボを忘れたと言い出す。冗談じゃないよな…。とりあえず西山と村田さんが個人的に持ってきていた薬で代用。不調者がいるのにヘルボ不携帯はあり得ないが、これから取りに戻ると塩見アタックが台無しになる。そのまま前進して塩見小屋でもう一度様子を見よう。勝木の荷物はできるだけ抜いて皆で持つ。トラバースの夏道はピンクリボンが多くて迷うことはない。単独男性のトレースをたどって順調に進む。塩見新道分岐付近でたるみ。中アや北アがすっきり見えて美しい。もう少し進んで限界上に出たところでアイゼン、ゴーグル、メットをつける。単独男性をこの辺りで抜いたがすぐに抜かされた。塩見と天狗岩の迫力に気分が高揚してきた。
 塩見小屋について防寒着を身につけ、ワカン・ポリ・竹竿・赤布・ゾンデなどをデポする。マップケースも邪魔なのでザックに収納し、合図用の笛だけ出した。私は勝木もデポするつもりだったが、本人は行きたいらしい。不調を感じたら些細な事でも報告することを条件に行けるところまで連れていこう。小屋から見る塩見は黒々とした岩肌をさらけ出しており、ルート上には雪は思ったほどついていないようだ。これは行ける、と確信した。
 単独男性を追って我々も出発。沢面子の中津と私で前後を挟んで進む。雪稜に乗って小さなピークをいくつか越えて天狗岩のトラバースに入る。
天狗岩をトラバース

岩が露出しているため、夏道のペンキマークを容易に辿ることが出来た。岩が雪で隠されていれば難度はぐっと上がるだろう。勝木が時々無言で立ち止まるので適宜たるませながら進む。天狗岩を越えてすぐにルンゼを下る個所があったが、雪が締まりすぎていたので注意が必要。ここから見上げる塩見もまた偉大だった。いよいよである。
天狗岩先コルから見上げる塩見も偉大

 岩場は特段難しい個所はない。夏道と同じレベルだと思われる。気を付けることと言えば、アイゼンを履いていることと落石くらい。個人的には岩の隙間が雪に隠された初冬常念のほうが厄介だった。勝木は時々立ち止まりながらもゆっくり進む。沢面子なだけあって不調時でも動作に不安はなかった。塩見直下でとうとう勝木が動かなくなった。調子を聞いてもなかなか答えなかったが、山頂に行きたいらしいのでザックをデポって空身にする。この辺りで山頂に行ったスノーシューの単独男性とすれ違った。速い。東峰のほうが風が弱いとの情報をいただく。後から来た数人のパーティに先を行かせ、我々はゆっくり進んだ。
天狗岩を見下ろす

難所と思われた塩見直下は意外なほどあっさり終わって気づけば西峰に到着。私が調べた記録には最後にルンゼを直上というものがいくつかあったがそれは、今回のような雪の状態では考えられないルートだった。
 そのまま、東峰へ。厳冬期、南アルプス、3052m。ピークで仲間と拳を突き合わせて喜びを分かち合った。
塩見登頂!

山頂からはあらゆる山を望むことが出来た。昨年の夏合宿で歩いた南ア、今年9月の中ア、12月の富士山、そのほか個人で訪れた山々…。こうして眺めているとそれぞれの山に詰まっている想いが溢れてきた。そして、今見えている山にも私たちのようにピーク目指して登っている人がいるんだなと。今頃、慶應ワンゲルも北岳目指して歩いているのだろうか。
東峰より白峰三山を望む
西峰と中ア、北アを望む

 風はそれほど強くないので、長めにたるむ。勝木も山頂に着くと元気が出たようで笑顔だった。良かった。2,3のパーティが来ては帰って行った。
塩見直下を慎重に降りる。

 帰路は速かった。1ピッチで塩見小屋に着いた。雪に埋めていた水は全く凍っていなかった。サクサクとトレースを辿って我が家へ。勝木は最後の方で再び調子が悪くなり、数十歩進んでは数秒立ち止まるを繰り返した。
このまま三伏峠へ行きたかったが、大事をとって同じ場所でサイト。α米と白米を約3/人を食べる。昨日余分に作った水は銀マの下に入れていたが、日中陽当たりが良かったこともあって凍っていなかった。おかげで水作りが少なくて済んだ。
明日は天候が悪化するのでテントの周りに溝を掘って備えた。ウイスキーを飲んで就寝。
今晩も、風が強い夜だった。


12/31(日) 高曇り・視界良し→猛吹雪・視界なし(昼に寒冷前線通過)
本谷山2658m[3] 、三伏山2615m
烏帽子岳2726m、前小河内岳2784m、小河内岳2802m[2]
5:00起床、6:477:07本谷山~7:55三伏山8:008:10三伏峠8:52~(たるみ10分、荷物抜き)~10:15烏帽子岳10:2711:17前小河内岳11:2712:20小河内岳~12:25小河内避難小屋▲3 【6ピッチ】

 空は曇っているが雲底が高いらしく、周りの山に雲はかかっておらず視界も良い。昨晩に続きα米。割と素早く作業が完了するが、勝木の準備が遅すぎて15分ほど待たされた。今日は時間に余裕があるものの天候は悪化傾向かつ限界上行動が長いので、こういうしょうもないところで時間をかけるのは危険だと知って欲しい。
 トレースは明瞭で夜冷え込んだためか雪が締まって歩きやすかった。本谷山で西側の展望が開ける。
2017年最後の日の出。

西から黒々とした雲が押し寄せてきて、中アが頑張って堰き止めてくれているところだった。北アはもう攻め込まれて黒雲の真っただ中。三伏山に着くころには中アを乗り越えてきた黒雲がどんどんこちらに押し寄せてきていた。たるんでいるうちに塩見も雲にかき消されてしまった。たるみの続きは三伏峠ですることに。
 峠のデポは無事に回収でき、今度はデポNo.2【登攀用具類、小河内往復に使わない行動食など】を作成し埋める。村田さんのワカンが壊れたらしいのでそれもデポしたが後で悔やむことになる。勝木はキジ打ちに行ってくると言ったきりなかなか帰ってこなかったので、ビーコンで探そうかと思ったほどだ。
 勝木先頭で出発を促すと下山口の方へ歩き始めた。声をかけても無言のままで反応しない。軌道修正させる。小河内への分岐には“小河内避難小屋、宿泊展望優”と書かれた看板がかかっていた。勝木はなぜかスピードアップし始めたが、1ピッチ歩かないうちに無言で立ちすくんでしまった。天候はますます悪化してきて吹雪いてきたし話しかけても反応がないのでたるみにする。できるだけ荷物を抜いて全員で持ち、また調子が悪くなったときはすぐに報告すること、戻りたくなったときはいつでも引き返せることを繰り返し伝える。本人はしばらく考えていたが小河内に行きたいと言う。西側は崖&天候が悪化しているため先頭を西山に変更し、ゆっくり進む。烏帽子に着いた頃には吹雪はますます激しさを増してきた。
吹雪は激しさを増してきた

テルモス500ml5人で分け合ってアイピケ・ゴーグルをつけてすぐに出発。続く前小河内でももう一本のテルモス500ml5人で分け合ってすぐに出発。視界が無いため前小河内の山頂は同定が難しかった。ここの下り途中で尾根を誤る。離れて後ろを歩いていた私が早めに気づき、正解の尾根に戻る。間違い尾根はこの先で急激に高度を落とし崖に消えていってたので、そのまま進むと危なかった。ところどころ雪の吹き溜まりがあり、腰ラッセル。踏み抜くこともしばしば。
 小河内の登りはなかなか身体に堪えた。快適な小屋が待っているとの一心で登った気がする。山頂についても風が強すぎて何が何だかよくわからなかった。南ア特有の太い木柱標識が見えたときはホッとした。小屋はすぐ近くにあるはずだが、視界が悪すぎて何も見えない。見当をつけて尾根を下ったが、一つずれていた。トラバースして小屋に到着。こういう悪天候時であればあるほど、小屋のありがたみって身に染みるんだよな。
 小屋は2階のドアが開放されていた。ロープの固定を外してドアを2つくぐって中に入る。綺麗すぎた。階段がまたおしゃれ。勝木は快適な小屋に入ると途端に元気になったので今までのはやはり精神的な疲労だったのだろう。大事に至らなくて良かった。小屋には本棚もあってエアリア2017年度版をはじめ、山岳・自然関係の書物が多い。自分が今まで読んできた書物とあまりに被っていて面白かった。カップ麺の貯蔵もあった。
 頭を悩ませたのがトイレの問題である。積雪が少なすぎる&三方は崖&夏は人が濃いためキジ打ち適地が見当たらない。そこで思いついたのが、“適当にキジ打ちして竹竿を立て、一晩寝かせることで凍らせ翌朝スノスコで回収”というものである。ゲート突破計画並みの名案だった。
 F装が余っているので昼食を作る。第一弾はCBP(クリームビーフシチューペンネ)とトマト鍋。ペンネはひとり180gもあった。初っ端から飛ばし過ぎてなかなかの飯トレだ。勝木は普段の小食に似合わずたくさん食べていた。かっぽじを担った中津はかなりきつそう。さすがCBPの効力、キジ打ち者多数。2017年最後のうんちは会心の出来だった。しばらく休んで甘酒で胃を沈ませようとしたが、濃厚でとろとろで…のどが渇いてさらに窮地に陥った。誰も口を利かなくなってテントでゴロンと寝る。17時ごろから水づくりを始める。
 夜はまず、年越し鍋を食べる。里いもが入っていておいしい。そしてまた一休みして差し入れ大放出。村田さんの“白州”を筆頭にありとあらゆる物が出された。品数で言えば間違いなく過去最多である。
差し入れは多すぎてほとんどお持ち帰り…。

まずは食べたいものを厳選して開けていく。AM電波が入りづらいため紅白をスマホで流しながら、つまむ。ウイスキーを飲んでたら気分が良くなってきて、横になったりする。結局、22:30ごろまで起きて年越しそばを食べてから就寝。
 大晦日の夜は激しい吹雪だった。


1/1(月) 快晴→晴れ、風強し(未明まで猛吹雪)
小河内岳2802m[2] 、前小河内岳2784m、烏帽子岳2726m、豊口山2231m[3]
5:00起床、6:406:45小河内岳(初日の出、体操)7:057:50前小河内岳8:008:50烏帽子岳9:00~(わかん5分)~10:05三伏峠(デポ回収)10:47~(たるみ10分)~豊口山コル11:5712:17豊口山12:2212:40豊口山コル(アイピケ)12:4713:15登山口13:2714:00夏ゲート14:1515:00夕立神パノラマ公園15:1515:38冬ゲート300m下の駐車場=こまくさの湯=21:00?山小屋 【9ピッチ】

 強風は収まることを知らず、小屋がガタガタと音を立てている。晴れているとよいのだが…。
5時に村田さんのコールで起床。お雑煮を作って「明けましておめでとうございます」。私の器には餅が6個も入っていた。小屋泊だと撤収も早い。6時過ぎには小屋の掃除も終わって出発の準備が整った。各自、自分のうんちをスノスコですくって回収。新年の初仕事である。勝木は早速初キジ打ちで忙しい。黒々とした闇に富士山のシルエットが浮かび上がって美しかった。風は強いが満天の星空。
 小屋前で待っているよりは山頂で日の出を迎える方が良いのでアイピケで出発。富士山の南方がますます橙に色づき始め、6:50に初日の出。
2018年初日の出。

塩見も我々の顔も赤く染まり、2018年は始まった。小河内山頂で四方の山並みを眼下に、御来光に照らされながらの体操は爽快だった。新年にふさわしい幕開けだった。
2018年最初の御来光に照らされて…、

 一晩続いた吹雪で周りの景色は一変していた。昨日、一生懸命に立てた竹竿には立派なエビの尻尾が形成され、見事真っ白に染め上げられていた。誰の手も付けられていない雪稜を越えて帰路に着く。塩見や周りの山々が朝日に照らされ橙に染まり美しい。雪山讃歌を口ずさみながら歩いた。
気持ちの良い雪稜を辿ると…、

良く締まった雪面にアイゼンが気持ちよく刺さる。終始、前方には美しい塩見が鎮座していた。喜びを反芻しながらの快適な雪稜歩きである。個人的には烏帽子岳からの塩見が一番かっこよく見えた。
塩見が一段とかっこよく見えた。

途中で2人組パーティーとすれ違う。三伏峠手前300mほどでワカンにしたが、私の前を歩くツボの村田さんが一歩踏み出すたびに腰まで沈むので不覚にも笑ってしまった。ワカンとツボってこれほども違うのか。皆で2回ずつ踏み固めて歩けば、正常に歩けて良かった。
 三伏峠でデポを回収する。昨年(と言っても1日前)のものであるが、無事だった。寒いので、日当たりのよい空き地で塩見を眺めながらたるむ。いつ見ても立派な塩見である。ああ、もうちょっと山に居たいな。
 下りもトレースはバッチリ残っていた。村田さんはワカンをビナで修理すれば使えるようになったので、全員ワカン。塩川ルートは少なくとも数人が通った跡があった。いくつも出てくる沢のトラバースがいやらしいのでメンバー全員が無事に通るのを確認しつつ進む。ピッケルを杖代わりに使うと安心だ。
 豊口山は往復40分ほどかかった。片道5分と思っていたがとてもそんなものじゃない。意外と遠い。普通の藪山だったが、南アらしく薄いもので、雪もくるぶしが隠れる程度だった。ピッケルで雪面をつついていたら三等三角点が出てきた。豊口山コルから下は積雪も少ない(30㎝以下)のでアイピケにする。
 林道はやはり面倒くさかった。それぞれ自分のペースで歩く。この頃には、日が傾き雲も湧いてきて小河内も隠れていた。冬ゲート手前に3台ほど、駐車場にはほかに1台の車が停まっていた。
長い長い林道歩き終了!

Furoは元日ということもあって閉まっているところが多く、昨年の中ア縦走で立ち寄ったこまくさの湯にHeil!ことにした。空腹を堪えて諏訪で食材調達後、村田さんのおじいさんの山小屋へ(新年早々有り難うございます)。
 夕食はすき焼き*7回や豚肉のワインソテーなど。皆次々と食い倒れて残ったのは勝木と私だけだった。2時ごろに就寝。食べきれなかったのは明日に後回し。思い返すとたくさん登ってたくさん食べた、贅沢な元日だ。


1/2(火) 快晴
山小屋14:00=諏訪大社=[R20R411]=23:30東京

 9時前に起きてbrunch(ぜんざい、雑煮*2回、豚肉&鶏肉のワインソテー、ピザ*2、から揚げ*20、その他余った差し入れたくさん…)を食べる。昨夜残したつけが回ってきた。片づけるのに4時間かかるが、小河内岳で年を越した差し入れを下界でいただくのも感慨深い。強敵のうどんはまた後回し。近くの貯水池の水面が凍っていたので、上を歩いて対岸に渡るという新年の度胸試しを行った(全員完遂)。
 その後、皆で諏訪大社に行って初詣。人が多かった。甲府でほうとうを食べたりしながら下道で帰京。
 最後まで残ったうどんは各自持って帰ることにした。



まとめ

雪山の難度は天候と積雪量によって大きく変わる。特に、岩稜帯を通過する場合はなおさらそうである。
自分が選んだ塩見であるが、調べれば調べるほど山頂直下の岩場が難しく感じた。こういう不安を拭うためにもルートの下見をしたほうがよい(今回はメンバー全員が初見)。技術を要する塩見とお楽しみの小河内という2種類のコースを設定したが、どちらもコンディションに恵まれた&なかなかキツめの山行“厳冬期4日間34ピッチ行動”と満足のいく結果だった。塩見はあっさり登頂できたものの、登頂に向けた一連の準備・取り組みは有意義かつ良い刺激になった。
山の上から見ている限り、この時期の南ア中南部や中ア南部などは雲がかかりにくく、とくにお勧めである。
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今回は塩見のために打ち合わせや情報共有など入念に準備を進めてきた。初冬常念では岩雪ミックスの練習になったし、雪訓富士山ではロープワークの練習&暴風を経験できた。頻繁に開催されるウォール会による非沢面子の登攀力向上も大きかったと思う。 山行直前には行動方針や山行記録、岩場の写真をまとめた資料を作成し参加者で共有することで認識の共有を図ったが、やって良かったと思う。


■積雪
三伏峠までだと5/10から先は雪の量が一気に増えた(100㎝ほど)。トレースを外すと膝まで沈み込む。峠から本谷山までは雪が深く、登りでは腰ラッセル。トレースがなくて消耗した。本谷山から先はそれほど沈むことはなかった。権右衛門のトラバースも快適に歩けた。塩見小屋は半分ほど埋まっていた。天狗岩は岩が露出しており、全体を通じて夏道のペンキマークが見える。塩見直下も雪は少なくところどころ礫が露出。大晦日の降雪で明らかに積雪が増加し、帰りの小河内~三伏峠は脛ラッセル以下(吹き溜まりは腰まで沈む)、鳥倉林道は9割近くが雪(10㎝以下)と氷に覆われていた。

■危険個所
正直に言うと、一番ヒヤッとしたのは凍った鳥倉林道。雪の下がほとんど凍っていて気を使った。
・塩見直下は雪が少なかったせいもあってほぼ夏道と同じレベル。ただ、落石・落氷雪が頻発する箇所が幾つかあるので、先行者や後続者には充分に注意すること。
・登山口~三伏峠は木の根や岩が凍ってツルツルなのでアイゼンが安心。またイヤな感じのトラバースが数か所あり、トレースがないと怖いし雪崩れそう。
・小河内岳方面は西側に崖が続き、落ちたら戻ってこれないので強風・視界不良時は注意を要す。東の雪庇&吹き溜まりは雪崩・崩壊注意。所々、急斜面があるのでアイピケワークはしっかりと。

■トレース
トレースが無かったのは三伏峠~塩見小屋、三伏峠~小河内岳のほとんどの区間。塩見小屋から山頂へのトレースは途中まで一緒だった単独男性がつけてくれた(有り難うございます)。塩川ルートのトレースは行きナシ帰りアリ。それにしても三伏峠から塩見アタックを狙う人はスノーシューをデポしたり時間に余裕がなかったりと完全にトレースをあてにしている(=他人頼み)ので、そういう登山ってどうなの?と疑問に思った。

■サイト適地
・本谷山から200mほど北に進んだ空き地が良い。452張は可能。駿河湾や夜景、伊豆半島が良く見える(おそらく海が見えるのはこの周辺に限られるだろう)。
・三伏峠~本谷山は木々や傾斜地が多く3人以上の幕営は難しそう。本谷山は山頂が広いが風の影響を受ける。
・本谷山~夏道分岐(トラバース開始点)は2人以下なら随所にある。夏道分岐周辺はだだっ広く張り放題。
・塩見小屋手前の森林内はそれなりに平坦で広いスペースが幾つかあった。
・三伏峠は広場が多すぎる。小河内方面へ300mほど歩き、シカの防護柵が広がる空き地が塩見も良く見えて吉。
・小河内方面は烏帽子手前からずっと限界上が続く。前小河内に平坦な窪地があったが、風は防げない。

■天気
SCWは雲のかかり具合が分かりやすい。ヤマテンとSCWはよく当たった。
今回は、北ア北部→北ア南部→木曽駒→空木→仙丈→北岳→赤石→塩見の順で雲に隠れることがほとんど。

■電波
docomoは基本的にどこも入りそう。auは小河内までの区間なら入ったみたい。SoftBankは冬ゲート以外ダメ。

■謝意
登山口~三伏峠まで先行トレース有り難うございました。三伏峠~塩見岳までスノーシューの単独男性の方、抜きつ抜かれつお世話になりました。
山行記録は岐阜大学山岳部(2016/12/11)、直近記録ではヤマレコ(2017/12/23)が詳細で助かりました。



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