メンバー:OB2大城、広瀬 4年松崎
遡行図:「関東周辺沢登りベスト50コース」
記:大城
自分の沢登り技術が通用する限界を感じた。
9/14(金)
新宿9:30=(JR)長坂0:40=(大泉タクシー)=林道ゲート1:15―1:50東屋先▲0
山手線が遅れて早速特急リカバーかと思われたが、中央線も遅れていたためセーフ。中央線内で広瀬・松崎と合流する。単独行が最近多かったためかワンゲル面子との山行は久しぶりである。車内で2人には地図などを渡し内容の確認を行う。長坂駅からタクシーに乗って林道ゲート(矢立岩)へ向かう。遡行図に「長坂=車止めゲート、タクシー1時間12,000円」と相当な金額が書かれており本当にそんなにするのかと思っていたが、ゲートに着いた時メーターを見ると5000円台でありほっと胸をなでおろす。元々は今日中に林道終点まで歩く予定にしていたが、時間が遅いという事で今日は林道中間部まで行って泊まることにした。尾白川林道は既に廃道と化しており、凸凹が酷いうえ所々で崩壊している。と言っても人が歩くのに問題ないレベルではある。東屋で寝ようかと思ったが、実際に見てみるとジメジメしてとてもここで泊まる気にはならなかったので、東屋から1,2分歩いたスペースで寝ることにした。こちらは広くて乾いており快適。ちなみに尾白川林道にはいたる所にこのようなスペースがあり寝るのには事欠かない。就寝準備をしているとザックの底からシールとクトーが出てきた。…捨てたい。無駄ボッカコンテストなるものが存在すれば入選くらいはするかもしれない。今日は雨の心配が無さそうなのでオカン。黒々とした木々の間からは満点の星空が覗いている。
9/15(土) 快晴のち曇り、一時雨
▲6:25―6:50林道終点7:10―7:20沢床―9:20懸垂した2段滝上9:30―10:30黄蓮谷出合10:45―11:30千丈滝上11:40―11:55坊主滝下―12:30坊主滝上―12:45二俣13:00―14:25奥千丈滝下―14:50三角岩の沢手前15:00―15:35奥千丈滝屈曲部小尾根上▲1
周りの提案もあり日の出よりも少し遅めに起床(睡眠時間を延ばすため)。澄み渡った空に太陽が輝いている。ずっとこの天気が続けば最高なのだが。残りの林道をサクサク歩き、トンネルを3つ越えてあっという間に林道終点へ。ここで沢装準備。本谷への降り口は明瞭で探す必要もない。下降路は見事に沢床までの最短経路となっており、気持ち良いほどの急勾配だ。特に上部は砂が堆積して滑りやすく、ロープに沿って慎重に下っていく。「養成だったらここだけで1時間かかる」by広瀬。入渓点付近は穏やかな河原。白い花崗岩と透明度の高い水は、ここが南アルプスであることを実感させてくれる。しばらく歩いているとナメや小滝が連続するようになる。どの記録にも必ず載っている初めの大きめの滝は、セオリー通り左のスラブから越える。傾斜がきつい印象を持っていたがそれは撮る角度の問題であり、実際にはとても緩くて簡単に登ることが出来た。このあたりを含め遡行図には何度か泳ぐような事が書かれているが、実際のところその必要は全く無い。ちなみに遡行図の記述はかなり簡略化されており対応が良く分からない部分が多い。中央にやや目障りなワイヤーが垂れ下がった滝は左から容易に登れる。細長い釜に横から注ぐ3mほどの滝はガバホールドに手が届けば簡単なのだが、それが難しく結局右から小さく巻く。問題は大きな釜を持った2段の滝。実はここ左岸に明瞭な巻道があるのだがそれが滝下から分からず、右岸の下部がやや道らしくなっていたこととさらに「尾白川本谷の滝の巻きは概ね右岸から」という記述があったことから右岸を全員で巻き始める。しかし良い下降点が見つからず、かなり上まで巻き上がった挙句に巨岩の上から空中懸垂で沢床に降りることにする。ところが懸垂したはいいものの、ザイルを回収しようと引っ張ってみるがびくともしない(最初の可動チェックでは動いたのに)。あー、空中懸垂でザイルが動かなくなるとは最悪!出来るだけ登り返して角度を変えてやってみるが一向に動く気配がない。プルージック登攀なんてものもあるがそれは最終手段。ここで一度沢床まで降りて左岸をチェックするとfixロープが見えるではないか。「あ、もしや」と思って左岸を見てみて初めてその道に気付く。この道を利用して一度滝下に戻り、右岸から再び懸垂始点まで戻ってザイルを下に下ろし、またまた滝下に戻って左岸から滝上に上がる。ちなみに、ザイルは絡まっていたわけでもなくどうして動かなかったのか不明。考えられるのは利用した木は縦向きに沢山筋が入っていたため、木とザイルの間に非常に強い摩擦がかかってしまったのではないかということだ。懸垂をする際には木の丈夫さだけでなく質にも注意した方が良いかもしれない。ちょうどこのとき、後ろから遡行してきた2パーティが自分たちに追いついた(このうち名古屋から来た2人組には、のちのちお世話になります)。ここを過ぎ、再び碧色の水を湛えた3mほどの滝が現れる。この先には10mほどの直登不可能な滝が控えており右岸から一緒に巻く。ここで先ほどのパーティに追いついてしまい渋滞発生。巻きは途中から根元がぐらついた灌木のみを頼りにしたきわどいトラバースとなりちょっと神経を使った。少し歩くと今度は右手に大きな岸壁が見えてくる。高さは50mほどか。赤い模様が何カ所かについており、「花岩」と呼ばれているらしい。花岩を過ぎて数段になったこれまた美しい釜を持った滝を右から越えると、今度は頭上に獅子の頭の形をした「獅子岩」が現れる。この辺りは実に見どころ満載だ。このあとも尾白川本谷はナメ床がひたすら続く。
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尾白川への下降路 |
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入渓点 |
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尾白川最初の滝 |
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中央にワイヤーのある滝 |
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懸垂してしまった滝 |
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赤い斑点のある花岩 |
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穏やかなナメを歩く |
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頭上に獅子岩 |
そうこうしているうちに黄蓮谷出合に到着したのでしばらくタルミ。残念ながら空はいつの間にかグレーに。黄蓮谷に入ってからしばらくは平凡な河原で、最初に現れる滝らしい滝が細長い釜の奥に懸かる樋状の滝。左壁にロープがやや強引につけられており、これを頼りトラバース気味に巻く。再び河原を進んでいくと、右手から坊主沢が出合うのとほぼ同時に有名な千丈滝が現れる。写真で見るよりも大きくて、そして優雅。下段は直登できそうだが中段以降はどのみち巻くしかなさそうなので、ガイドにある右岸の巻き道を探す。すると滝に最も近い小尾根上に非常に明瞭な道が出来ており、これを辿っていくと簡単に滝上に出る事が出来た。道の下部に「黄蓮谷大龍神」石碑があり、無事に遡行を終えることが出来るようお祈りしておく。ちなみに滝の下段を上がったところからこの巻き道に入ることも可能。千丈滝上で右岸から五丈沢が滝を懸けて出合う。ここに来てついに雨が降り出したが幸いすぐに止んだ。間髪入れずに出てくる次の滝を巻くために今度は左岸につけられた明瞭な巻道を上がって小尾根上にのると大変快適な天場があり、たき火の跡も残っていた。2泊前提ならここで泊まるととても快適そうである。さらに進むと正面にガレルンゼが見え始め、その左側に特異な景観を有する坊主滝が出現。滝下にはこの時期にもかかわらず雪渓が残っていた(この場所以外で雪渓は見なかった)。坊主滝の巻は先ほどのガレルンゼから。30mほど脆いルンゼを登っていくと左にわりと分かりやすい踏み跡が続いているのでここから滝上に向けてトラバースを開始する。巻きは明瞭だが沢床に降りる少し手前で2mほどの崖があり、飛び降りるには少し高い。今回はスリングを下から回収可能な形で垂らして降りたが怖い場合は懸垂でも良いかも。2俣少し手前の15mは右の草付き小ルンゼを登るが、最後の灌木を掴んで上がるところでちょっと手こずった。
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黄蓮谷に入って最初の滝 |
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千丈滝 |
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黄蓮谷大龍神
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超快適そうなテン場 |
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坊主滝(左)と巻に使用するガレルンゼ(右) |
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二俣 |
右俣では右俣左俣とも滝を懸けて出合っており、右俣は傾斜の強い15m滝。遡行図には右から直登と書いているが出だしがなかなか難しく巻きを見る(巻きのしんどさを考えるともう少し直登を粘った方が賢明だった気もするが)。広瀬&松崎が左巻きで自分が右巻き。右は灌木の藪。基部がスラブのためか、ほとんどが根元からぐらついてあまり心穏やかではない。しかも急傾斜のため腕力登攀に近い。やっとの思いで滝の落ち口に近い高度に達すると、右岸のほぼ同じ高度にいる松崎&広瀬から「そこ(今自分がいる場所)を進んでも落ち口付近にホールドが無く抜けられないだろう」との事。ってことは、また今のところを下るのか~~勘弁してくれ…。登るとき以上に慎重にそろーりそろーりと高度を下げ何とか降り出し地点に戻る。広瀬たちもそれなりに苦戦しているようだが、松崎が先に落ち口に抜けることに成功し広瀬に対してスリングをセットしている模様。結局自分もそこまで登ってスリングを利用して滝上に抜けたが、ここも完全な腕力登攀である。この滝上から名古屋の2人と京都の山岳会と相前後しながら登っていく。15m滝からはガレ場のような場所が続く。そろそろ幕営の事も考える必要があり周りのパーティにも方針を聞きつつ良い場所を探しながら行くが、なかなかサイト敵地が見つからない。山岳会の人たちがあそこはどうかといっていた平らな岩も、2回寝返りをすると滑落しそうなので今回は見送り。そうこうしているうちに奥千丈滝下端に到達してしまった。
少しの間方針を考えるが、まだ行動時間に余裕があることと奥千丈滝途中にもテン場があるという情報から、核心部の登攀を開始することにする。奥千丈滝の始まりは10mほどのやや傾斜の強い滝。右のクラック状を登るがホールド&スタンスは豊富。そしてこの上は傾斜の緩い100mほどの長―い樋状滝。部分的に見るとホールドスタンス豊富で難しくはないのだが、なにしろ距離が長いのと、多少滑っているのと、一度滑り出すと際限なく落ちていきそうなのと、水が冷たく長時間ホールドを握っていられない(標高は既に2000mを超えている)のとで、なかなか精神的に疲れる部分だ。ガスってきて余計寒い。沢の屈曲点付近で右から三角岩の沢が出合うが、この下に一ヵ所難しい部分がある(ここが遡行図に書かれた「逆くの字」なのかどうかいまいち確証が持てない)。ここの手前で休んでいると下から来た名古屋のパーティがリードで突破。ここで我々もリードすべきだったのだが松崎がフリーで突破。そのあと自分が登ろうとするも最後の部分で一歩が出ず詰まってしまう。すると先ほどのパーティの方がスリングを出して下さったので利用させていただく。後続の広瀬も同じ地点で詰まったので今度は自分がスリングを出す。さらに、その後ろから登って来られた山岳会の方が同じ地点をフリーで登ろうとして滑落されたので(幸い数mで停止)、余計なお世話かもと思ったが人が滑落しているのを無視して進むのもどうかという気がしたのでスリングを出させてもらう。ここを過ぎると水流際は完全な一枚岩のスラブとなりとても登れないので、右の草付きを辿って登っていく。そしてこの草付を登りきったところにツェルト1張分の良いテン場があった。三角岩の沢と黄蓮谷の間の小尾根上にあって、高度感はあるものの滑落の危険性は無い。おまけに眺めが良く甲府市内が見渡せる。現在我々含め周辺に3パーティがいるわけであるが、結局自分たちがここを使わせてもらえることになった。非常に助かりました。尚、残る2パーティもこの天場から見える範囲の上流で幕営していたので、奥千丈の滝屈曲部付近にはテン場が点在していることが分かる。
問題は水汲みであるが、このテン場上部にあるスラブのクラックを辿って比較的簡単に沢床に降りることが出来る(といっても万が一足を滑らせたら一巻の終わりである)事が分かり一件落着。この時点で3人ともかなりの疲労状態だ。やっと訪れた休息の時間であるが、この後もスラブ滝が沢山控えていることは承知済み。明日は今日よりも楽に滝群を越えて山頂に立てることを願いつつシュラフに入って目を閉じた(そう甘くはなかった)。
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奥千丈滝の始まり |
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長ーい樋状滝(写真だと傾斜感が出ない…) |
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奥千丈屈曲部のいやらしい箇所 |
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水汲みに利用したクラック |
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見晴らしの良いテン場 |
9/16(日) 快晴のち曇り
▲1 6:00―8:45烏帽子沢9:05―11:00リードした滝上11:10―11:35巨大スラブ帯中間部11:45―12:40最後のTR地点上12:50―13:40稜線―13:45甲斐駒ケ岳14:20―15:15駒津峰15:30―16:20 2502ピョコ脇16:30―17:15北沢峠17:25―17:35北沢駒仙小屋(北沢長衛小屋)
昨日と違い睡眠は十分にとることが出来た。今日も朝は快晴である。左岸には見ているだけで恐怖感を覚えるような岸壁が聳え、その岩肌を眩しい朝の光が照らしている。そんな景色を眺めながら久しぶりのラーメン餅を食し、行動開始。初めは昨日水汲みに使ったクラックを進んで沢床に降り立つ。上流に幕営していたパーティの方に挨拶をしつつ遡行していく。初めに出てくるボコボコした感じの滝は容易。その上部で男女のパーティが幕営しており、次の滝にはそのパーティによって右のクラック状にfixロープが張られていた。ここもフリーでそれほど問題なく越せる。問題となるのはこの後の滝。逆くの字状のナメ滝が2つ連続しており一つ目を登ろうとするがフリーでは厳しくリードしようという話になる。そこへ後ろから男女のパーティが追いついたため(明らかに自分たちのリードの方が遅いので)先に行ってもらうことにする。女性の方が確保して男性が空身で登って行ったが、カムや残置を利用して5分くらいでいとも簡単に越えてしまった。ワンゲルで養成をやってきたせいか「リード」→「ものすごく時間がかかる」という固定観念が染み付いてしまっているが、このくらいサクッとリードができるようになりたいものだ。というか、なる必要がある。女性が登った後ロープを利用して良いと言ってもらったのでそのロープを手がかりにして我々も登らせてもらう。ここだけで随分時間の短縮になったと思う。次の滝はさらに問題であった。同じような形状の滝だがさらに高さがある。左に何本もクラックが走っており、これに入ればそのまま登って行けそうである。しかし、クラックに入るまでが難しく、手がかりが無いためハーケンを打つことにする。ところが、ハーケンを打っている間に松崎がより滝に近い方からフリーで登って滝上に出てしまった(厳密には滝上ではなく烏帽子沢)。ザイルは自分が持っているので先に行かれてもあまりメリットが無いのだが、とりあえずフリーで行けるようなので自分もフリーで取り付く。が、…普通に怖いんですが。これはリードでしょう。残置ハーケンからセルフビレイを取りながらなんとか自分も滝上に出たが広瀬が登れない模様。自分がザイルを出すために良い視点を探そうと上の方まで上がっていると、今度は名古屋のパーティのうち1名がリードで上がり、登って来られた方が滝のすぐ上でボディビレイをしてTRでもう1名を滝上に上げる。自分がすぐにザイルを出すことが出来ないため、結局広瀬もそのパーティの方にTRで滝上に登らせてもらうことになった。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。滝に取り付く前にきちんと意志の疎通を図っておくべきであった。非常に反省。
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2日目朝 |
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奥千丈上の滝を越していく |
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逆「く」の字スラブ1つ目 |
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スラブ滝でクラックの登攀を試みる |
さて、現在我々とそのパーティのいる位置は本流から離れた烏帽子沢。この沢は地図上では不明瞭であるが(2330m付近で右岸から流入している起伏)、実際にみると明らかに沢と認識できる。細く切れ込んだ岩の窪みに所狭しと巨岩が埋まっている特殊な沢である。この沢をしばらく登っていくと適当な地点から本流の方にトラバースすることが出来、全員同じルートで本流に復帰した。復帰した地点はインゼル状を呈しており、近くにテン場の跡が見られる。実はこれと並行して京都の山岳会が右岸の尾根上から大きく滝を巻いており、その尾根上には踏み跡もあった模様。ただしそれがどこまで続いているのかは良く分からなかった。復帰した本流はもうすでに水枯れに近く、ちょろちょろ申し訳程度に流れる水流をマップケース利用でポリタンに注ぎ入れる。枯れ沢は広大で巨岩があちらこちらに転がっている。もしあんなものが真上から落ちてきたら死ぬ前に声すら上げられないだろう。二俣らしきところで本流と思われる方には巨大なスラブ滝(50mくらい?)が懸かっておりこれは巻くしかない。名古屋のパーティは一度右俣に入って上部でトラバースし本流に復帰したようで、結果的にこれが最もスマートなルートだったようだ。我々は左の踏み跡を使って巻く方針で行く。この踏み跡はそこそこ明瞭で先行していた山岳会の人たちもこのルートで来ていた。滝上までこの調子でいけるかと思いきや、最後の部分がフリーでは突破不能なコーナー状スラブと化している。山岳会の方はここをリードで突破しており、自分たちもここでリードを行う(松崎ビレイヤー、自分クライマー)。これがなかなか曲者で、見た目それほど難しそうではないのだが、実際にそこに立ってみると足がかりが皆無に等しく、後ろが巨大な岸壁となって落ち込んでいることもあり結構な恐怖感がある。左の僅かなクラックを下から掴み、高さ数㎜ほどの「コケ」をフットホールドとし、微妙なバランスでじわりじわりと登っていく。幸い残置ハーケンは全部で4本ほどあり打つ必要はなかった。残る2人はTRで通す。
もういい加減に滝は終わってほしいが、この先をみると何やら巨大な岩壁が見えている。遡行図には奥の二俣を過ぎてからは3段60mしか記述が無いが、実際は50mくらいの巨大な壁のような滝がいくつもあった。もはや遡行図があてにならない。リードをした地点から傾斜の緩めのスラブを登っていくと一見行き止まりに見える横に筋の入った岸壁にぶち当たる。これも滝の一つで、左から巻くとその上にもまたまた巨大なスラブが出現。これは右に明瞭な巻道があった。技術的な問題はないが、とにかく急傾斜なので疲れる。ここを過ぎると踏み跡は再び沢の左へ。「もうさすがに終わりだよね」をエンドレスに繰り返しながら高度を上げていくと、踏み跡がまたもいやらしいスラブで遮られる。残置スリングが2本打ってありこれを利用して自分&松崎が越えた後、広瀬を手掛かりで上げる。そして同じような箇所がその直後にまたも出現。こちらには4本残置スリングがあり同様に自分が登って残る2人はTRで上げる。これが終了すると滝は本当に終了。あとは本流を詰めるだけ。詰めるだけなのだが、この300mほどが急傾斜でしかも全員今までのスラブ地獄で疲労困憊しており、もう口をついて出る言葉といえば「しんどい」の一言しかない。幸い踏み跡は途中から明瞭となり、稜線に達するまで藪に消えることなく続いていた。13時40分、稜線着。
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巨岩帯を進む |
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大きなスラブ滝 |
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リードした岩角コーナー |
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壁のような滝 |
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山頂まで一息! |
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甲斐駒ケ岳 |
詰め上げた地点は甲斐駒ピーク直下。この際なので沢装はピークまで行って解除とする。ピークはガスっているが時折ガスが晴れて周囲の山々が見渡せたりもする。100名山だけあって人が多い。ピークの標識近くにいた家族連れに頼んで記念写真を撮ってもらった。
下山は北沢峠方面。山頂を後にする前に「誰か下山の時だけザイル持ちたいっていう人とかいない…かな?」と訊いてみたが、愛想の良い苦笑いが返ってきただけであった。道は基本的には良く整備されており(上部はやや岩っぽいところもあった)別段記述するようなことも無いが、3人とも疲れすぎてほとんど無言で下っていた。30mの登り返しがこんなにきついものか。ピークを出発して3時間後に北沢峠に着いた時、太陽の光は既に赤い色を帯びて樹林帯を染めていた。
・まとめ
登攀技術、確保技術、そして体力すべてが要求される沢であった。今回はこのうち確保技術が不足していたと感じる。養成を長いことやっていると初心者のケアに高い意識が向く反面、「トップはフリーでも落ちない」というおかしな前提が知らず知らずのうちに頭の中に出来上がっている気がした。ある程度のレベルの沢までは登攀技術があればそれでも事足りるが、黄蓮谷はその限界を超えていた。したがって難しい場所ではきちんとリードしながら登れば良いのだが、ここでもう一つ問題なのがすぐにリードをしようという気にならない事だ。おそらくリード訓練で一つの滝に2時間以上かけたりするため「リードは時間がかかり非常に大変」という意識が出来上がってしまっていることである。このため時間がかかりすぎるからフリーで行く方が良いという本末転倒な考えに陥ってしまっていた気がする。実際他のパーティを見ていると残置ハーケンやカム(クラックの多い滝では威力絶大!)を使うなどしてリードをしても大概10分20分で1つの滝を越しているし、ビレイ方法もセルフビレイをとらないボディビレイが殆どである。奥千丈滝以降常にコンティニュアスビレイをしているパーティもあり、それは100%安全という訳ではないが完全にフリーで行くよりよっぽどいい。決められた通りの方法で「正確に」確保する技術を持つこと、それはそれで大切であるが今回は「気軽に」「臨機応変に」確保しながら登る技術(或いは気持ち)も必要であると認識させられた。
このレベルの沢になると記録を書く側のレベルも高く、特に丹沢や奥多摩に慣れたワンゲルの人はネット記録を見る際などそれを十分加味しておく必要がある。遡行図もかなり大雑把できちんとした現地判断が求められる。
もちろん以上の事は、一度はこういうグレードの沢に行かなければなかなか実感できないものであるし、他の遡行者のレベルが高いため人のやり方を見ているだけでもいろいろ参考になった。そういう意味で、本山行で得たものは多かった。
ちなみにワンゲルで出すのはかなり厳しいと思う。一つは先ほどの確保の問題で、例えば奥千丈滝以降長期間危険地帯が続くがそこで常にセルフビレイをとりながらリードなどをしていてはいくら時間があっても足りないだろう。だから確保するにしても「ある程度の危険性を伴う確保技術」を使うことになるが、そうすると部活動の性質上難しくなるだろう。もう一つはMaxの問題である。奥千丈の滝以降かなりの区間際どいスラブが続くわけだが、この下降には遡行の数倍の時間がかかると考えられる。従っておそらくMax12ピッチ以内には収まらないだろう(奥千丈下部はハーケンを連打しながら懸垂??)。
難しさの記述ばかりになってしまったが、黄蓮谷は南アルプスの懐にいることを全身で味わわせてくれる素晴らしい谷であった。今回学んだ事を生かして、またこのような名渓を遡行したい。気持ちに余裕をもって。
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